- 鉛色の恋 -

キラキラと 雪を食む
ぼんやりと 色付く躯
これで空を舞えるかしら
フワフワと 雲を呑む
ふんわりと 彩る心
これで星を取れるかしら
でも おかしいわ
私には影がないの
ほら おかしいわ
土の中に潜っても
空になんか行けないのに
動けないのは どうしてかしら



- 風の前の塵 -

巨人は花を見止めぬ
蟲は空を見上げぬ
荒らせど荒らせど
気に留まることは無い
滅びを
顧みることも無く



- 水平移動の夢 -

地の底 天の床 深みを知らず流れる
海にはなれず 雲にもならず
水平移動の夢
ゆらゆらと 蜃気楼
破るのはいつも 声
手のように不躾な 大声
破られて 産声も 奪われて
ゆらゆらと 蜃気楼
追われることもなく
遅れることもなく
ゆらゆらと
ゆらゆらと
蜃気楼



- 爪先 -

目を閉じた奥深くで
昏い色がたゆたっている
それは手の平か
それは言葉か
あやふやなものが伸びてくる
諦めて
諦めかけて
目を開けた そこには
靴に包まれた爪先が
あった



- 古びたビスクドール -

窓を叩く水は
雨だろうか 雪だろうか
空の色に溶け出して 在ることすらまやかしのよう
部屋の明るさも 冷たさにも慣れた
軋む節に触れる指先を 信じることも忘れて
透明な歪みに 手を添える真似を 夢想して
嘲る黒い羽からは 目を閉じて逃げる 願い
ああ
真横へ滑り行く銀細工が
この首を穿つのは いつでしょうか