朝の五時半 冷たい空気 直線の街並みを走る 古い自転車 軋ませながら いつもの今日を始めようか 面倒とか つまらないと 扉を開いてはぼやいてる それは自分自身の影を 踏んでいるからだと 季節の移ろいなんて見えない 積み重ねた砂粒をほどけるほど まだ大人にはなれなくて 雲のない空を仰ぐよ 知らない景色 教えられた 振り向きもせず忘れていった それを目にする瞬間を 少しでも延ばしたかった 笑顔ひとつで誤魔化せるよう ありふれた日々を 求めていた いつかを待つ意味を まだ知らないまま 雲のない空を仰ぐよ 虹もない朝を走るよ 掠れゆく写真に残る遠い日々 なぞる指の輪郭 色の褪せた表紙の中 霧の向こうの宵夢は押し花にして 何処から何処へ流れて来るの 浚って行くの 応えの囁きさえ 風と遊ぶままで 煙る柔らかさが 青の底に梳けて 揺れた影を色取る 眩しさ 欠片 筆の先 滲む蝶の翅を拾う 空色した糸の端 真白い雪を似せて踊る 静かな誘(いざな)いを縫うように 続く軌跡を繋ぐ もしも帰り道が 地図の外 解けたら 霧の向こう 月を失くした迷いは 星空 並木道隠す霧 足音に溶かして はるか明日のコトノハ結んだ 夢の果て 素直な気持ちを取り出すために なんでこんなに苦しいの 吐き出したいだけいいよと君は言う なのに涙がつかえているの ねえスコップをちょうだい いらない栓を削ってしまいたいよ 喉の奥で疼いたまま こんなにももどかしいの ワタシの欲しいもの ワタシの見たいもの ワタシの持てるもの ワタシの捨てたもの 一度に全部取り出して曝したいけど 心臓の外ではどれも意味が無い 「飾り外した小さな頭 振り回した音が鮮やかならば せめて君を満たせるの」 どうして出てくるのは こんなギゼンばかりだろう ツメを立ててまで離さないのに 手を握ることは難しくて 気が付けば繰り返す同じコトバ 君の困り顔は知っているのに 噛み千切った古い血管から ココロを絞り出すにはどうしたら 時計を壊したって 真っ白な自分なんて 鏡の向こうにしかいないって 覚え切れないほど重ねたノート ためいきに溶けるほど軽いのに 叫ぼうともがくほど この声は栓の奥で灯されて 「どうかその手を貸して もつれた髪のまま触れてくれたなら せめて夢も見ず眠れるの」 見上げた君の目に 柔らかい君の手に ほんの少しだけ洗われた瞼を 今日もまた 閉じるのです ただ生まれ ただ呼吸(いき)し 立つのは奈落の頂き その靴は鉄のよう 泳ぐ指 飽い無き仔 呼び声が聞こえる 縋る声染み入る さぁ 迷路の始まり 響く和音も知らず 小さな手に 触れた もの インクの階段 生糸のシャンデリア 瞳(め)を開(あ)いた 悪無き仔 ひとつふたつ解(け)して みっつよっつ越えて 六度 手拍子が鳴る 数え切れないエコー 繰り返す 空は土 進もうと 同じ笛 弾む 置き去りの リザルト 空瓶 歪めて 海へ 見えない中身 栓をして 遠くへ 遠くへ 投げた 決して 戻ってきませんように 決して 還ってきませんように 祈り 望み 願い 忘れ 怖れ 恨み 怯え 失い やがて夜 枕元 水に濡れた 小さな私 喉に張り付く 零度 耳を這い回る 冷度 捨てるだなんて愚かしい 何度も糸を手繰り寄せ お前の首を絞めてあげる |